3病院と一緒に創り上げた「IKIZAMAミュージックでぃなーしょー」レポート

3月1日(日)に「IKIZAMAミュージックでぃなーしょー」が無事終演しました。

このプロジェクトは、OUTBACKスクール生が神奈川県内の精神科病院を訪問し、入院患者の皆さんと交流するワークショップを重ね、そこで語られたことを音楽や演劇で表現し、発表するものです。神奈川県の共生共創事業の一貫として、昨年度からの継続で実施しました。
今年度のテーマは、「食事」。体を維持するために欠かせない食事は、人とのコミュニケーションを楽しむ機会でもあります。しかし、辛さや苦しさなどの感情が食事の記憶と重なる場合もあります。そんな人生が詰まった「食事」に焦点を当てて、昨年の11月からワークショップを開始しました。
約4ヶ月にわたるプロジェクトについて、プロジェクトの全体進行を務めた中村マミコがレポートします。
※このプロジェクトの概要についてはこちらをご覧ください。

http://kyosei-kyoso.jp/events/ikizama20260301

◎紫雲会横浜病院でのワークショップ
紫雲会横浜病院は、横浜市神奈川区の丘の上に位置し、百十余年の歴史ある病院です。近年は急性期治療に力を入れていますが、長期入院の患者さんも多いようです。OUTBACKとは、その前進となる活動から含めると、10年近くお付き合いのある病院です。今回は11月12日、26日の2回ワークショップを行いました。参加者は、入院患者、病院スタッフ、OUTBACKスクール生など含めて約30人。7割近くの患者さんが昨年度既に会ったことのある人たちでした。久しぶりに会える喜びとは裏腹に、入院が未だ継続していることになんとも言えない気持ちにもなりました。
体を使った表現活動をするための準備として、簡単なゲームをいくつかやったり、私が出すお題にそってモノの形を体で表現するというワークをメインに進めました。患者さん、作業療法スタッフ、OUTBACKスクール生全員が混ぜこぜになって、にぎやかに活動。最後は、今回のテーマ「人生の中で思い出に残る食事」について、一人ひとり語ってもらい、その食事をみんなで協力しながら体で表現しました。
ある1人の女性の患者さんが話してくれた「目玉焼き」がとても印象に残りました。この女性は元々目玉焼きが大好物だったそうです。けれど、入院してから数年間、病院食のメニューとして目玉焼きが提供されることはなかったとのこと。作業療法の料理プログラムに参加して、ようやく何年ぶりかに食べることができた時のことが忘れられないと語ってくれました。語りのあと、みんなで目玉焼きを作る過程を体で表現し、最後には話してくれた患者さん自身に食べて(食べるふりをして)もらいました。記憶の中の味がよみがえったのか、とても美味しそうにほおばり、笑顔を見せてくれました。表現活動を通して大切な思い出を共有する喜びを改めて感じられた瞬間でした。
また、休憩時間には華麗なピアノ演奏を披露してくれる人、歌謡曲を熱唱してくれる人などが次々と登場。個性、才能豊かな患者さんとの交流は、とても刺激的で、彼らの表現者としての魅力をどうにかして多くの人に見てもらえないだろうかと思わずにはいられない時間になりました。

◎武田病院でのワークショップ
武田病院は、小田急線登戸駅から徒歩7分ほどの住宅街にある病院です。2階の作業療法室からは、晴れていれば富士山が家々の屋根越しに見えます。明るくてとても清々しい印象の病院です。武田病院とは昨年度から交流を始めました。今回の参加者は、OUTBACKスクール生含めて各回約30人ほど。1月7日、13日に訪問し、ワークショップを行いました。病院スタッフの方々との事前の打合せで、詩を書くプログラムを提案したところ、やったことのないことにチャレンジしてみたいということで、今回は詩の表現に挑戦することになりました。
「人生の中で思い出に残る食事」というテーマで患者さんたちに詩を書いてもらいました。入院生活の中で詩を書く機会はほぼ無いでしょう。なので、書くことに抵抗感、ハードルを感じる人が多いかなと思っていたのですが、みなさん思い悩むことなく、サーっと書き上げていたのが印象的でした。誰かに語りたい、伝えたいことをいっぱい胸にしまっていたのかもしれません。どの言葉も飾り気がなく、ストレートで、それでいて情景が目に浮かぶものばかりでした。子どもの頃の楽しい思い出の食事、家族がつくってくれた料理の素朴な味わい、病院食の味気なさ、面接前の緊張で食事が口に入らなかったことなど、その人の日常、その人となりが伝わるような詩ばかりでした。詩を読む時に、一緒にワークショップの講師を務めた音楽家の西井夕紀子さんが持ってきてくれた楽器で音を添えました。味を音で表現しようとする人、気持ちを音で表現しようとする人など、いろいろな形で詩に音を当てることを楽しみ、詩の世界観をのびのびと自由に楽しんでいました。
印象に残っている詩があります。冷え切った家族関係の中で取らざるを得ない食事のつらさについて書かれた詩です。明るく、朗らかな詩が多く語られる中、その時の情景を冷静にとらえた、とても鋭さを感じさせるものでした。

地獄の夕メシ刻(ゆうめしどき)
静かな食卓 だぁれも話さない
私を含めて五人もいるのに
みんな私を見てる
異様な食卓
父も母も姉二人も気が付いた 皆私に言ってる
目で言ってる
食卓をにぎやかにするのは私の役目だと
なんでやねん それ こう言うのだ
重責 荷が重い お前(おまん)がやれ

詩そのものもとても素晴らしかったのですが、その朗読表現はさらに印象深いものでした。チーンという金属の鐘の音と静寂の”間“がうまく混ざり合い、糸が張り詰めたような緊張感をもって朗読してくれました。詩の作者が、家族から離れ、どのような気持ちで今入院生活をしているのか、ゆっくり聞く時間を持つことはできませんでしたが、家族から距離を置いた場所だからこそ自分の内に貯めていたものを外に出し、表現できたのだと思います。

◎神奈川県立精神医療センターでのワークショップ
神奈川県立精神医療センターは、横浜市港南区にある県立の病院です。主要駅からは車でしかアクセスできず、少々不便ではありますが、病床数が300床以上あるとても大きな病院です。今回はじめて訪れる病院ということで、丁寧にワークを進めるために、1月26日、2月2日、2月9日の3日間設けました。入院患者さんだけでなく、外来でデイケアに通っている患者さんも参加し、総勢約30人の参加者となりました。
こちらの病院では、体を使った表現活動と詩を書くこと両方を行いました。どちらの活動に対しても、とても積極的に取り組んでくれました。
患者さんの1人に摂食障害の方がいました。過食と拒食を日々繰り返し、そのことに振り回されてしまう自分の状態を天秤に例えて詩に書いていました。その詩に即座に反応したのはOUTBACKのゆゆでした。ワーク終了後、すぐに声をかけ、肩をたたき、励まし合っていました。同じ病名というつながりから、すぐに距離を縮めることができてしまうOUTBACKの人の強みを改めて感じる瞬間でした。
また、5、6人で行ったグループ作業の様子もとても印象的でした。グループで活動するには、話し合いが必要になります。こうしたい、ああしたいとアイディアを出し合い、議論を積み重ねます。入院生活の中では求められない作業です。どの患者さんも一見物静かで、コミュニケーションが苦手そうにみえます。けれど、どの患者さんもグループの中でとても一生懸命に、粘り強く、そしてイキイキと夢中になってコミュニケーションを図っていました。なぜそのようなコミュニケーションが可能となったのか。それは単純に楽しかったからだと思います。入院生活の中で、患者さんたちが「楽しい」と思える瞬間をどれだけつくれるかが、治療の鍵になるのではないかと、ワークの様子を見て改めて思いました。

◎「IKIZAMAミュージックでぃなーしょー」@Art Center NEW
病院でのワークショップを経て、改めてOUTBACKスクール生と話し合い、演出家の多田淳之介さん、音楽家の西井夕紀子さんと創作活動を重ね、3月1日にArt Center NEW(みなとみらい線新高島駅から直結)発表しました。第1部は、紫雲会横浜病院でどんなワークショップをしてきたのかをデモンストレーションをしながら紹介。そして、第1部の最大のハイライトは、紫雲会横浜病院の患者さんが舞台に上がったことでした。長期入院している患者さんにとっては、会場に足を運ぶだけでもとても大きな勇気が必要なことです。けれど、なんと5人の患者さんは、公演を観るだけにとどまらず、舞台に立ち、パフォーマンスを披露してくれました。レベッカの「フレンズ」、ピアノの即興演奏、クリスタルキングの「大都会」。その迫力たるや。まさに「IKIZAMA」がそこにはありました。また、武田病院のスタッフ、県立精神医療センターのスタッフ、患者さんも舞台に上がって、ワークショップの感想を話してくださったり、ワークショップ中に書いた詩を披露してくれました。第2部は、OUTBACKスクール生自身の食事にまつわる歌やシーンを発表。また、武田病院の患者さんの詩をスクール生が朗読しました。会場と一体感を感じられ、熱く盛り上がる公演になりました。
この2年間病院との交流を続けてきて感じるのは、患者さんたちは表現したい気持ちで溢れているということです。患者としてではなく、1人の人として生きてきた中で感じてきたこと、思っていることを誰かに伝えたいと強く願っていると感じました。表現は発信するだけでなく、受けとめることがなければ成立しません。その点において、OUTBACKスクール生が受けとめる立場として、とても大きく貢献していたと思います。患者さんたちの表現を、とても温かな眼差しで受け止め、そして次なる表現へと自然な形で促していたように思います。どのような状態、境遇にある人にとっても、表現はとても大切なものです。表現を生み出し、支え、広げていくことが、OUTBACKの活動のミッションであることを改めて感じられるプロジェクトになりました。

撮影・佐藤光展

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