OUTBACKが「壁をぶち破れ」プロジェクトで精神科病院進出/オンラインで入院患者と詩を創作/歌にして11月公演で披露へ
6月4日、反町地域ケアプラザ(横浜市神奈川区)で行ったOUTBAKアクターズスクール第3回ワークショップ。過去最多となる35人の参加者たちが、小さなパソコン画面を笑顔で見詰めます。オンラインの向こう側にいるのは、横浜市内の精神科病院・紫雲会横浜病院の入院患者たち。弾む会話とワークを楽しむうちに、魅力的な詩が出来上がっていきました。OUTBACKアクターズスクールの「取り巻く壁をぶち破れ」プロジェクトがついに始動したのです。
この日は、軽いストレッチと発声練習でスタート。講師のまえちゃんが用意した「ハレルヤ」の音源に合わせて、短いフレーズの音階を少しずつ上げながら、繰り返し歌いました。初参加のトモミさんがとてもボリュームのある声の持ち主だったので、周りの人たちも負けないように声を出し、部屋中に大音量の声が響き渡りました。
次に行ったのは、「空間を作る」ワークです。講師のけいさんがまず、ここがどんな場所なのかを指示します。そしてスクール生たちが1人ずつ、「ここに◯◯があります」と言って、ジェスチャーでモノを配置していきます。
例えば、けいさんが「女王の部屋」とお題を出すと、スクール生たちは「ここに大きな天蓋付きベッドがあります」「ここにステンドグラスの綺麗な窓があります」などと言いながら、マリーアントワネットが暮らしたような豪華な部屋を想像力で作り上げていきました。実際はそこには何もないのに、様々なものが見えてきて、非常にクリエイティブな時間になりました。
そして、今回のメインプログラムに突入。入院中の人たちとオンラインで交流しながら、詩を作っていくワークで、この手法は「ドラトラ」と呼ばれています。
精神科病院に長く入院している人たちは、2020年にコロナ禍が始まると、外出がこれまで以上に制限されたり、家族との面会ができなくなったりしました。そして、ますます追い込まれてしまった人たちのストレスを緩和し、外の世界とつながり直すきっかけにして欲しいとの願いから、紫雲会横浜病院の協力を得て今回のワークを実施しました。
まずはオンラインで自己紹介。病院からは患者5人、作業療法士2人が参加し、スクール生たちと一緒に、「海」というタイトルで個々に詩を書きました。「ドラトラ」は、フィリピンのPETA(フィリピン教育演劇協会)が開発したプログラムで、初心者でも書きやすいように五行詩を創作します。詩を「名詞/動詞/形容詞・形容動詞・擬音語/連想すること/思い、メッセージ」という5つの部分に分けて、それぞれに一言ずつ書いていくだけで完成します。
参加者たちは詩作に取り組み、出来上がった作品は紙に書いて、ひとりずつ読み上げました。さらに、「旅」というタイトルでも詩作。子どもの頃の家族旅行や、京都への修学旅行のことなど、楽しい場面が浮んでくる詩や、旅を人生に例えた詩など、個々の人生が垣間見える味わい深い作品が読み上げられていきました。
その後、5人1組のグループに分かれてグループ詩を作りました。ひとりひとりが先ほど作った詩を1行ごとに切り離し、ミックスさせてひとつの大きなグループ詩として再構成します。病院の様子はパソコンの画面越しにしか分かりませんが、途中、何度も大きな笑い声が聞こえ、和気あいあいと作業をしているのが分かりました。
完成したグループ詩は、グループごとに発表。病院の人たちは、旅にまつわるたくさんの思い出と切なさが詰まったグループ詩を完成させ、スクール生たちはその芸術性の高さに驚いていました。今回の詩は、音楽家のゆっきーとスクール生の音楽チームが曲をつけて、11月公演で披露する予定です。
ワークショップの現場と精神科病院をオンラインでつなぐ初の試みは、大成功しました。オンラインでも互いの距離はすぐに縮まり、刺激を受け合いながら創作力を高めることができました。病院の人たちとは今後も交流を重ね、11月には一緒に舞台に立ちたいと思っています。
(撮影 佐藤光展)
斬新的で、なにか想像を超えた計画のために向かっているようで、どんな実を結ぶのかワクワクしますね。次の展開をただ信じて突っ走って下さい。